宣伝文句は嘘ではない。条件が小さく書いてあるだけ

AIツールの紹介ページには「高精度」「自動で」「無料で使える」といった言葉が並びます。どれも嘘とは限りません。ただ、その言葉が成り立つ条件は小さく書かれていて、条件から外れたぶんは、使う人の手間として戻ってきます。

この記事では、その戻ってくる手間を「値札に載らない手間」と呼びます。料金表には載りませんが、手直しの時間や確かめる作業として、毎月払っているのと同じだからです。

扱うのは次の場面です。

  • 文字起こしの「精度◯%」
  • AI英会話の「1日3回まで」と、年払いの「月あたり◯円」
  • 背景の自動切り抜きと、写真から表を作る作業
  • 無料のAIチャットと、無料の動画変換ソフト
  • AIに頼むたびに打っている前置き

ツールの順位付けはしません。料金・回数・変換時間などの数字も、この記事では繰り返さず、取得日や測定条件つきで載せている個別の記事にリンクで渡します。同じ題材を動画でも扱っていますが、記事は、手間を金額に直す手順と、宣伝文句の横に書き足すメモの表を中心に組み直しました。

今日消せる手間から:毎回打っている前置きを設定欄に登録する

ツールを比べる前に、手元ですぐ消せる手間が1つあります。AIに頼むたびに打っている前置きです。

  • 自分の仕事と立場
  • 誰が読む文章か
  • 避けたい言い回し

毎回同じ3行なら、AIの設定欄に1回登録しておけば打たずに済みます。登録する場所の呼び名は、ChatGPTなら「カスタム指示」、Claudeなら「プロジェクト」、Geminiなら「Gem」です(2026年10月の動画制作時点の呼び名)。

効く範囲は、欄によって違う

登録すれば、どの会話でも効くとは限りません。新しい会話すべてに効く欄と、その入れ物(プロジェクトやGem)を開いて始めた会話にだけ効く欄があります。入れ物の形の欄に登録したなら、先に入れ物を開いてから本題を書きます。

呼び名も効く範囲も、サービスの更新で変わることがあります。登録したら、新しい会話を1つ始めて前置きなしで頼み、指示が効いているかを確かめてください。

登録は、同じ直しを2回頼んだら1行足す

登録は1回で終わりではありません。同じ直しを2回頼んだら、その一言を登録に1行足します。「敬語はやめて」のように、毎回打ち直している注文が対象です。

打ち直すたびに使っていた時間は、登録した時点で止まります。前置きの登録はどのツールを使っていても効くので、有料にするか無料のままにするかを決める前に済ませておく価値があります。

数字の宣伝文句は、自分と同じ条件の行を探してから読む

「精度◯%」「1日3回まで」「年払いなら月あたり◯円」。数字の宣伝文句は比べやすく見えますが、どれも条件つきです。読むときは、数字そのものより、その数字が何を数えていて、どんな条件で出たものかを先に探します。

精度のパーセントは、録音の条件で変わる

文字起こしの精度は、録音の条件で大きく変わります。話し手が1人で静かな場所の録音と、声が重なる会議の録音は別ものです。紹介ページの数字が、どちらの録音の条件で出たものかまでは書かれていないことが多いです。

会議の録音に使うなら、精度の数字より先に、誰が話したかを分けて出す機能(話者の分離)があるかを見ます。無いと全員の発言が1つに並び、あとから自分で振り分けることになります。この手間は録音の本数に比例して積み上がります。

話し手が1人の録音なら、話者の分離は気にしなくて構いません。複数人の会議が中心なら、無料のツールには付いていないものもあるので、最初に確かめます。乗り換え先を比べるときの見方はNottaの代替は必要?の「乗り換え先を比べるときに見る4つの機能」で整理しています。

「1日3回」は、何を数えた回数かと、外せるか

AI英会話のスピークバディとSpeakには、どちらも「1日3回」の上限があります。ただ、数えているものが違います。スピークバディは台本のない会話をする回数、Speakは下のプランで自分用のレッスンを作ってもらう回数です。

もう1つの違いは、その上限を外せるかです。Speakは上のプランに上げると外れます。スピークバディはプランが1つで、上げて外す道がありません。

外せない上限は、使い方で避けるしかありません。上限に当たる日がほとんど無いなら、中身の違いは気にしなくて構いません。回数の中身とプランの詳細はスピークバディとSpeakの比較にあります。

年払いの「月あたり」は、続いた月数で割り直す

年払いの月あたり料金は、年額を12で割った数字です。つまり、12か月続けた人の値段です。途中でやめたら、払った年額を続いた月数で割り直したものが、自分にとっての月額になります。

スピークバディとSpeakの比較で両アプリの年払いを割り直したところ、3か月でやめた場合は、どのプランも月払いより高い計算になりました。年払いを選ぶのは、3か月でやめても納得できる金額かを確かめてからにしてください。

手直しの時間を、月額と同じ単位に直す4ステップ

精度の数字や「自動」の言葉を見比べても決まらないときは、自分の手間を金額に直すと比べられるようになります。料金表と同じ「1か月あたりの円」に直せば、有料プランの月額と横に並べられます。

  1. 直近の1本で、手直しの時間を計る: 文字起こしなら、出てきた文章を使える形に直し終わるまで。1本ぶんだけ計れば足りる
  2. 1か月の本数を掛ける: 先月の録音の本数や、変換した動画の本数で構わない
  3. 自分の時給を掛ける: 会社員なら、月給を1か月の労働時間で割った値を目安にする
  4. 有料プランの月額と比べる: 手間の金額のほうが大きければ、払ってもとが取れる側。小さければ、無料のままでよい側

たとえば手直しが月3時間で、時給が2,000円なら、手間は6,000円ぶんです。有料プランの月額がそれより低ければ、手直しが減るぶんで回収できる計算になります。この計算例はNottaの代替は必要?の「乗り換える前に確認する5つのチェック項目」と同じ前提です。

この計算には但し書きが1つあります。有料にしたら手直しがどれだけ減るかは、契約前には分かりません。無料体験がある場合は、体験期間中に同じ素材でもう1回計り、減った時間のぶんだけを金額に直して月額と比べると、見込み違いが小さくなります。

「自動」と書いてあっても、人の手に戻る2つの場面

「自動で」「ワンクリックで」という言葉は、手間がゼロになるという意味ではありません。自動の処理にも苦手な相手があり、そこから先は人が引き取ります。申し込む前に、その相手が自分の素材に多いかを見ておきます。

背景の自動切り抜き:境目が読めない3つの相手

背景を自動で消す機能は、写したい物と背景の境目を読み取って切り分けます。境目が読みにくい相手では崩れやすくなります。

  • 髪の毛: 細いすきまを境目と読み違え、塗り残すか、消しすぎて透けるかのどちらかになる
  • ガラスやレースのように透ける物: 向こう側が透けた部分を、背景と見分けられない
  • 背景と同じ色の服: 白い服で白い壁の前に立つと、境目そのものが作れない

崩れは、撮る前に半分防げます。服と背景の色を離し、壁から一歩前に出て撮ります。撮ったあとは、切り抜いた画像を濃い色の背景の上に置いて拡大すると、消し残りや消しすぎが見つけやすくなります。

崩れを見つけても、最初からやり直す必要はありません。手直し用のブラシがあるツールなら、崩れた境目だけをなぞって直せます。ブラシの有無はツールによって違うので、髪や透ける物を切り抜くことが多いなら、そこを先に確かめてください。

写真から表にする作業:任せるのは書き写しまで

画像やPDFを読めるAIなら、領収書の束を撮って渡すだけで、表の形にして返してくれます。手で打ち込む作業が減るので、書き写しは任せて構いません。

任せないほうがよいのは合計です。AIの足し算はたいてい合っていますが、だからこそ、ずれた1回を見逃します。1桁ずれても表の見た目はきれいなままなので、眺めても気づけません。合計は表計算ソフトか電卓で出します。

原本との見比べは、間違えたら誰が困るかで強さを変えます。

出す先原本と見比べる範囲
自分だけが見るもの(家計のメモなど)金額がいちばん大きい1件
人やお金が絡むもの(会社の精算・見積もりなど)数字を全部

用途ごとにどこまで確かめるかの考え方は、AIハルシネーション対策の「リスク別・確認をどこまでやるかの早見表」でも扱っています。

「無料」で足りるかは、止まったときの症状で決める

無料のツールは、お金がかからない代わりに上限や条件があります。足りるかどうかは値札では決まらず、自分の使い方で決まります。止まったときの症状から、次の一手を選びます。

無料のAIチャット:増やすのはアカウントより、担当するAI

「今日はここまで」と上限のお知らせが出ても、2つ目のアカウントを作るのは避けてください。規約違反になりうるサービスが多く、アカウントが止まるおそれがあります。回数が足りないなら、増やすのはアカウントではなく、担当するAIです。下書き・要約・調べもので使うAIを分ければ、上限が1か所に集まりません。

無料版は頭脳にあたるモデルから弱い、と決めつける必要もありません。基本のモデルは有料版と共通のことが多く、差は主に回数と上位の機能です。一方で、無料プランでは入力した内容が品質改善に使われる場合があります。機密や個人情報を入れる前に、設定を確かめてください。

上限には、回数・機能・容量の3つの型があります。

  • 回数で止まる: 回復を待つか、担当するAIを分ける
  • 機能で止まる: その上位機能が毎日要るかを見直す。毎日要るなら、そこが課金を考える合図
  • 容量で止まる: 資料の数や保存の量の上限。渡し方を変えるか、別の無料AIへ移す

型ごとの症状と、工夫で粘る・別の無料AIへ移す・課金するの分かれ目は、生成AIは無料で使い分ければ十分?の「無料枠は『回数・機能・容量』の3タイプで詰まる」の節と、詰まり方で分かれる3つの手の節にあります。

無料の動画変換ソフト:形式・量・録画の3点で見る

送った動画が「再生できない形式」と返されて、変換ソフトを探す場面があります。無料で足りるかは、次の3点で見当がつきます。

  • 形式: スマホで撮ったMP4のような一般的な形式なら、無料で足りやすい。カメラやドローン特有の形式は、手持ちの1本を通して試す
  • 量: 月に何分ぶん変換するか。多いほど、1本ごとの待ち時間が効いてくる
  • 録画: 画面の録画まで1本のソフトで済ませたいか。無料だと、録画は別のソフトになりやすい

待ち時間は、映像用の部品であるGPUを使えると大きく縮みます。無料のFFmpegでもGPUを使った変換はでき、VideoProc Converter AIと無料動画変換ソフトの比較で2026年10月13日に変換時間を計っています。

ただし、GPUを使うと出力のファイルが大きくなる、対応するGPUが無いと使えない、という但し書きがつきます。速さはPCで変わるので、自分のPCで1本変換して計り、月の量に掛けてください。

有料のソフトに払う理由として残るのは、文字で命令を打つ手間と、ソフトを行き来する手間が減ることです。FFmpegは命令を打って使うタイプなので、それを避けたい人や、録画まで1本で済ませたい人には有料が候補になります。有料のほうが速いかどうかは、上の記事でも製品版を動かしていないため分かっていません。素材・月の変換量・GPUの有無からの行き先は、同じ記事の表で引けます。

宣伝文句の横に書き足す、自分の手間のメモ

ここまでの話を、宣伝文句の横に書き足すメモの形にまとめます。宣伝文句を見かけたら、2列目を自分で数えてから、右の2列のどちらに当たるかを見てください。「このままでよい」は、いまの使い方や無料の範囲のままで困らない側です。「考え直す」は、プランやツールの選び方、確かめ方を見直す側です。

宣伝文句自分で数えることこのままでよい考え直す
「精度◯%」(文字起こし)手持ちの録音1本の手直しの時間話し手が1人。または手直しの金額が有料の月額に届かない複数人の会議が中心なのに、話者を分ける機能が無い
「1日◯回まで」上限に当たった日の数上限に当たる日がほとんど無い毎日のように当たり、しかもその上限を外せない
「年払いなら月あたり◯円」続けられそうな月数12か月続ける見込みがある。または途中でやめても納得できる続くか分からない。まず月払いで様子を見る
「自動で背景を消せる」髪・透ける物・背景と同じ色の服を切り抜く回数そうした素材が少ない多いのに、手直し用のブラシが無い
「写真から自動で表に」出す先は自分だけか、人やお金が絡むか自分だけ。金額がいちばん大きい1件を見比べる人やお金が絡む。合計は表計算で出し、数字は全部見比べる
「無料で使える」(AIチャット)止まったときの型(回数・機能・容量)回数で止まるだけ。担当するAIを分ける毎日要る機能で止まる
「無料で変換できる」(動画)自分のPCでの1本の変換時間と、月の本数待ち時間を許せて、命令を打つのも苦にならない命令を打つのを避けたい。録画まで1本で済ませたい

「考え直す」に当たった行は、それぞれの節で紹介した記事で、料金や条件を確かめてください。表に無い宣伝文句でも、横に自分の手間を書き足し、手直しの時間の4ステップで月額と比べる流れは同じです。

よくある質問

「高精度」と書いてあれば、手直しは少ないと考えてよいですか?

そうとは限りません。その精度が出た条件と、自分の素材の条件が同じとは限らないからです。無料体験やお試しの枠があるなら、手持ちの素材を1本通して、手直しにかかった時間を計るのがいちばん確かです。

手直しの時間を毎回計るのは面倒です。1回で決めてもよいですか?

1回で構いません。必要なのは、直近の1本の手直し時間と、1か月の本数だけです。使い方が大きく変わったとき(会議が増えた、動画の本数が増えたなど)だけ、計り直してください。

無料と有料で迷ったら、どちらから始めればよいですか?

無料から始めて、止まったときの症状をメモしておくのがおすすめです。毎日要る機能で止まる、手直しの時間を金額に直すと有料の月額を上回る、のどちらかに当たったら、有料を考える合図です。どちらにも当たらないうちは、無料のままで困りません。

前置きの登録と、依頼文を毎回工夫するのは、どう使い分けますか?

毎回同じ部分は登録に、その回だけの条件は依頼文に書きます。仕事と立場、読み手、避けたい言い回しは登録向きです。目的や渡す材料、出してほしい形はその回ごとに変わるので、依頼文に書きます。依頼文に足す要素はAIプロンプトのコツにまとめています。